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2025年10月1日

創造性インタビュー

「熱量」がチームを動かす~三菱総研・山野内雄哉さん~

新規事業開発というと、外部コンサルティングに依存する企業も少なくない。しかし、その方法だと社内にノウハウが蓄積されず、次の挑戦につながらない―。そうした顧客の声を踏まえた課題の解決に向けたヒントや実践例について、三菱総合研究所で新サービス「INNOGUIDE(イノガイド)」の開発・推進を手がける山野内雄哉さんに聞いた。山野内さんは「社内に知見を残しながら新規事業を育てる」仕組み作りに挑戦している。そして創造性は「アイデアを出す」ことにとどまらず、「実装」までを含めて初めて成り立つと指摘。そこに不可欠なのが、つらい局面でも前に進むための“熱量”だという。

 

メンバーの「オタク的スイッチ」を押して内発的な動機を引き出す工夫、仲間と共感を重ねて挑戦を続ける姿勢など新規事業の現場で培われた山野内さんの知見は、チームの創造性発揮に通じるエッセンスを含んでいると言えそうだ。

 

当コンソーシアムは、チームの創造性発揮を支援するリーダーたちにインタビューして、さまざま実践例から創造性向上のヒントを探り、連載で紹介していく。初回インタビューの一問一答は次の通り。

 

山野内雄哉さん

新規事業の「外注依存」を変えたい

――現在の業務内容について教えてください。

新サービス「INNOGUIDE」の開発・推進を担当しています。従来、新規事業は外部コンサルに頼ることが多く、その結果、社内にノウハウが残らないという顧客の声を多く耳にしました。そこに課題を感じ、社内に知見を残しながら新規事業を育てられる仕組みを作ろうとしています。私はプロジェクトマネジャーとして、サービスの起案から推進までを担っています。

 

「INNOGUIDE」は、製品の市場適合(PMF)を達成するための事業開発メソッド(手順・方法)や、思考・行動様式を顧客に提供しながら、事業開発自体と事業開発人材育成を支援するサービスです。さらに、失敗を回避する具体的なアクションの提示、チャットによる有識者相談機能などを通じて、企業の内製型事業開発を多面的にサポート、提供しています。

アイデアは「出す」だけでなく「実装」まで

――創造性についてどう考えていますか。

創造性は「アイデアの発散」「収束」「実装」の3段階があると思っています。「たくさん出すこと」だけがよく強調されますが、それだけでは不十分。事業として実装できるかどうか、そこまでたどり着けて初めて創造性と呼べると思っています。

カギは「熱量」

――創造性を発揮するために必要なものは

新規事業の現場はつらいことの方が多い。だからこそ「このアイデアを実現したい」と思える熱量があるかどうかが重要です。つらい時でもメンバーがその熱を持ち続けられるかどうか。そこをマネジャーとして一番意識しています。

「オタク的スイッチ」を押す

――熱量をどう引き出していますか。

人の「内側から湧き出る動機」を知ることです。趣味でも仕事でも、夢中になるテーマがある人は強い。そのスイッチをつかんで火をつける。私は「オタク的に話し出す瞬間」を見逃さないようにしています。

 

また、チーム全員が新規事業の経験者であることも大きい。課題のしんどさを知っているからこそ「解決したい」という共感が自然に生まれる。経験に裏打ちされたモチベーションは強いです。

心理的安全性より「自己開示」

――心理的安全性との違いは。

心理的安全性は「反対意見を言える雰囲気」のこととも言えます。でも私が意識しているのは自己開示です。もっと踏み込んで、自分のこだわりや来歴を話せる関係性。そうすると、困難に直面したときも折れにくい。単なる意見交換より強い結束が生まれます。

熱量をつくる「場」

――チーム内での具体的な雰囲気づくりは。

週1回、対面で90分程度の議論をできるだけ設けています。オンラインは便利ですが、会話のラリーに限界がある。対面だと「それいいですね」といった共感が場に広がり、熱量が自然に増幅するんです。

 

アイデア出しの時は、あえてアジェンダを作らない。沈黙を恐れて詰め込みすぎると、盛り上がらない会議になります。自由に対話できる余白こそ、熱量を生むんです。

制度が「余白」を保証する

――創造性発揮に向けた社内制度面での支援は。

三菱総研には、「未来共創時間」という制度があり、社員は年間100時間、自分の知的好奇心に基づいたクリエイティブな活動として使えます。人事部が公認している「知的倶楽部」もその活動の一環で、部活のようなものですね。知的倶楽部は、同じ興味関心を持つ社員が集まって、勉強会をしたり意見交換をする場です。例えば、特定の地域出身の人が集まって地元活性化のためのアイデアを交わし、その結果を役所に提案することもあります。こうした制度があることで、創造性を育む土壌ができていると感じます。

「INNOGUIDE」が生まれるまで

――実際に創造性を実感した事例は。

今取り組んでいる「INNOGUIDE」も、最初は夜にシャワーを浴びているときに思いついて、ランチ中の雑談で「それ面白いね」と共感してくれる仲間がいて、少しずつ形になっていった。

 

最初は専門学校向けの実務家ノウハウ提供サービスという形でしたが、会社の強みや自分・仲間の経験を考慮して何度も方向転換しました。今では収益を生む段階に近づいています。こうして振り返ると、私たち自身が創造性を発揮してアイデアを事業に育ててきたと実感します。

 


 

創造性はアイデアの数ではなく、実現に向けた「熱量」と「共感」で育まれる。山野内さんのマネジメントは、メンバーの内発的な動機を尊重し、自己開示を促すことでチームの原動力を引き出している。対面での一体感が、その熱量を支え続ける。明日の会議を変えるヒントは、「アジェンダを削る」「あえてプライベートにも踏み込む」。そんな小さな工夫にあるのかもしれない。

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