2025年11月4日
創造性インタビュー
創造的なアイデアを生み出す際に有効とされる思考法に「リフレーミング」がある。物事の見方や枠組み(フレーム)を意識的に変えることで、新しい意味や可能性を見いだす方法だ。サステナビリティに強みを持ったブランディングやPRの企画実行を手がける株式会社アイクリエイト(東京都渋谷区)の粟田あや代表取締役はリフレーミングを意識し、多様な経験を持つ人と人の「つながり」を育むことこそが「創造性を生む資本」だと強調する。一問一答は次の通り。

粟田あやさん
フレームに共感してもらうには
――現在の業務内容について教えてください。
アイクリエイトは2008年に創業し、企業と多様なステークホルダーとの関係性をどう築くかを重視してブランディングとPRを展開しています。地方創生プロジェクトや国際NGO(非政府組織)の広報企画などを担ってきました。
例えば、「食品ロスをなくそう」という呼びかけをしたいという場合に、誰に向けて、どのように興味を持ってもらうかを企画します。食品ロスを減らした分を途上国への食糧支援につなげるといったフレームに共感してもらうには、どうやって伝えるか。こうした視点から、企業などのPRに関する企画立案から実行までを支援しています。
近年は自社事業として「SATOYAMER」プロジェクトを立ち上げ、八ヶ岳で耕作放棄地の再生を進めながら、自然との協生を実践する場づくりにも取り組んでいます。元企業役員経験者など多様なバックグラウンドを持つ人材が八ヶ岳に移住し、活動を広げています。
多様な経験と行動力を重視
――「SATOYAMER」メンバーに求めるスキルや姿勢は。
まず「自然との協生」や「サステナビリティ」を心から大切に思っていることが前提です。言葉だけではなく、実際に行動しているかどうかが重要です。
その上で、正解のない仕事を楽しめる好奇心や、失敗から学ぶ姿勢を重視しています。創造性を発揮するには、失敗は避けられません。成功談ばかり語り、失敗を話せない人は要注意。もしかすると、他人の成果を自分のもののように語る「アレオレ詐欺」かもしれません(笑)。
また、フルタイム正社員ではなく、複業人材を積極的に受け入れているのも特徴です。設立当初から「一社専属」ではなく、複数の組織に関わる人と仕事をする。多様な人材を受け入れることで、ネットワークや視野が広がると考えてきました。
ステークホルダーを捉え直す
――創造性をどう捉えていますか。
私たちにとって創造性とは「一人の天才が特別なアイデアを出すこと」ではありません。人と人とのつながりを丁寧に構築することで、自然と課題解決や新しい企画を生み出す力になると考えています。
例えば、あるクライアントから「サステナビリティ意識の高い30〜40代女性にアプローチしたい」という依頼がありました。通常ならその層に直接施策を打つところですが、私たちは「その人たちがサステナビリティに関心を持つ瞬間はいつか」と考えました。
それは、子どもが生まれた瞬間かもしれない。10年後、20年後の地球を思い描くことで視野が広がる。つまり、子どもがキーになる。そこで、学童など子どもが集まる場にメッセージを届ける企画を立案し、子どもを通じて親世代の共感を得るというアプローチを取りました。
結果として、狙った層の共感を得ることができました。こうした、リフレーミングを意識したステークホルダーを広く捉えなおす発想が、創造性の源泉になると考えています。
多様性は「関係性の質」で決まる
――多様性についての考えは。
多様性というと、異なるバックグラウンドの人を集めることが重視されがちですが、私たちは「プロジェクトごとに最適な多様性がある」と考えています。
ただ人数を増やすだけでは、創造性が高まるとは限りません。むしろ、無理に異なる関係性のメンバーを集めると、かえってうまくいかないこともあります。だからこそ、「この企画ならこの人の視点が必要」「この関係性が加わるとシナジーが生まれる」といったように、関係性の“解像度”を高めながら必要なステークホルダーを選び取ることが重要です。
もちろん、最終的には経験や直感も必要ですが、日頃から幅広い人とコミュニケーションを重ねておくことで、その判断の精度は確実に高まります。
私たちは、多様性とは「数の多さ」ではなく、「関係性の質」と「選び方」で決まるものだと捉えています。プロジェクトに合った多様性を見極めることが、創造性を引き出す鍵になるのです。
アイデアよりもモチベーション
――アイデアを「実行」につなげるために心がけていることは
実は、アイデアそのものよりも、関わる人たちのモチベーションをどう引き出すかが重要だと思っています。とても素晴らしいアイデアが会議室で承認されたとしても、アイデアを実行する人が不在の企画は空回りしてしまいます。その場合は、実行する人を企画段階からキーマンとして巻き込むことが不可欠です。現場の納得感がなければ企画は空回りします。「これは自分たちが作ったものだ」と感じてもらうことが実行力につながります。
さらに、行動がしっかり評価され、失敗しても次への学びとして受け止められる風土があること。そうした安心感があるからこそ、人は挑戦でき、アイデアは実行に移されるのだと思います。
創造性は、誰とつながるか
粟田さんが実践するのは、「誰と組むか」「どんな視点を加えるか」を丁寧に選び取ること。多様性はただ集めるものではなく、企画に合った人を見極めることで、初めて力になる。人とのつながりを深く考え、関係性の中に化学反応を起こしていくことが創造性を発揮する原動力になるのかもしれない。
