News

2025年11月18日

創造性インタビュー

「ゆるいつながり」が創造性を育む ~フリーランス(oVice広報メンバー)・薬袋友花里さん~

薬袋友花里さんは、年間の半分は自宅を離れ、国内外を旅するように働くノマドワーカーだ。大学卒業後、新聞記者としてキャリアをスタートし、その後、日本総領事館や大手航空会社、バーチャルオフィス運営会社oVice(石川県七尾市)を経て、現在はフリーランスとして活動。多様な経験とスキルを生かした仕事を手がけ、バーチャルオフィスやSNSなどのデジタルツールも駆使し、世界中の人とつながりを広げている。

薬袋さんは旅先での偶然の出会いや、多様な人や文化と関わった経験から、創造性は「ゆるいつながり」を広げることで育まれると語る。インタビューの一問一答は次の通り。

 

ニュージーランドでリモートワークする薬袋さん

 

なじみない国でリモートワーク

――現在の業務内容について教えてください。

主にフリーランスとして、WEB記事の執筆を手がけたり、企業の広報戦略を支援したりしています。現在関わっている企業は、oViceを含めて4~5社ほどで、4~6人規模のチームでプロジェクトを進めることが多いです。

日本に限らず世界中のどこでも、いろいろな場所に出掛けて刺激を受けることが好きなので、年間の半分以上は国内外の自宅以外の場所で働いています。例えば、ジョージアやアゼルバイジャン、ウズベキスタンといった、日本人にはまだあまりなじみのない国にも足を運び、現地でのリモートワークを実体験してきました。

さまざまな国で異なるバックボーンを持つ人たちと対話する中で、同じ場所にとどまっていたら生まれなかった発想が、交流の中から自然に生まれてくると感じます。

場所にとらわれないデジタルノマド

――多様な経験が創造性にどう影響しましたか。

例えば、ジョージアは場所に縛られず仕事をする「デジタルノマド」が世界中から集まる国です。そこで開催されたワークショップ「ノマドニア」に参加し、さまざまなノマドワーカーたちとの交流を通じて、創造性を発揮するベースを身に付けることができました。

ワークショップでは 10種類の異なる職種(Webライター、リモートアシスタントなど)を経験し、自分の中で「好き」と「得意」を再確認できました。

私は「人の目に触れるものを作る」ことが好きで、それができる仕事をする時にモチベーションが上がり、創造性を最大限発揮できます。1カ月のプログラムでしたが、好きなことに没頭して課題に取り組んでいると、時間があっという間に過ぎていきました。

また、会社員時代に培ったスキルが「人の役に立つ」と実感できたのも大きな収穫でした。例えば、新聞記者時代に身に付けた「人から話を聞いて文章に落とし込む力」や、oViceで鍛えられた「スピード感を持って形にする力」は自分では当たり前と思っていたものの、他の人から見ると大きな強みだと気づけました。

このように自分自身の経験や能力、強みを認識することは重要です。そして自分の得意なスキルと、心から楽しめる行動が重なる時、自然にアイデアが湧き、発想を具体的な形にするエネルギーが生まれてくる感覚を実感しています。

「薄く・ゆるく交流」

――創造性を引き出すために心がけていることは。

意識しているのは、薄く・ゆるく交流をたくさんつくることです。分野がまったく違う人と関わることで、経験や発想の幅が広がり、独自の価値を持ったアウトプットにつながると考えます。

そのため、国内外のさまざまな場所に積極的に足を運んでいます。一方で、実務面ではチームメンバーと直接会う機会が減ってしまうという課題もあります。これについては、バーチャルオフィスを運営するoViceで働いた経験が生きました。

場所が違っても、同じ場にいる感覚を演出するために、今もoViceのバーチャルオフィスを活用しています。リモートワークでも気軽に声をかけ合うカジュアルなコミュニケーションができるため、文字だけでは伝わらない温度感や雰囲気を共有できます。

さらに、アバターを通じてお互いの業務をリアルタイムで見ることで、仕事における適度な緊張感も生まれます。はじめは“リアルタイムでつながっている感”に少し緊張することもありましたが、さまざまな企業と関わる中でそれが必要だと気づきました。

このほか、特に広報として勤務しているoViceでは、タスク管理ツールなどを活用し業務プロセスの見える化にも取り組み、世界中どこにいても距離を超えてチームの一体感を生み出す環境を整えています。

固定観念を取り払う

――創造性を発揮できたと感じることは。

WEBライターの仕事では、どんな記事でも創造性発揮が不可欠です。さまざまな人と出会い、多様な経験や視点に触れることは、新しい「ネタ」になると同時に、独自の発想や鋭い着眼点を生み出すきっかけにもなります。

例えば、国内外でリモートワークした経験をWEBメディアに掲載していますが、その土地ならではの文化や価値観などを取り入れることで、記事に独自性と新たな価値を出せます。ジョージアはノマドワーカーの聖地として有名ですが、実際に働く際の住宅事情やジョージア料理のおいしさ、日本人が暮らしやすいかなどは経験しないと分かりません。

また、私は「優等生」として型にはまった人生を歩んできました。良い大学に入り、安定した企業に就職することが当たり前だと思っていました。しかし、ジョージアで出会ったノマドワーカーたちは全く異なる価値観を持ちながらも、互いの考え方を尊重していました。その触れ合いを通じて、「こうあるべき」という固定観念は崩れ去り、「自分が何をしたいか」という軸で物事を考えるようになりました。

こうした価値観の変化を読者に伝える事も、私にしか出せない創造性だと思います。企業広報支援の仕事でも、この経験が生きています。従来の企業広報が捉われがちな固定観念を取り払い、別の視点から広報戦略を再構築するお手伝いをしています。

例えば、BtoB企業ではSNSを十分に活用できていないケースが多いです。私自身の経験から、BtoB企業であっても、LinkedInなどのSNSを効果的に活用することで、経営者などのビジネス層に効果的にアプローチできる可能性があるため、そうした広報戦略を提案しています。企業広報を新しい視点から再構築していくプロセスは、創造性を発揮していると感じる瞬間です。

切り替えを意識

――働く人が創造性を高めるために必要と思うことは。

日本企業のリモートワークは「オフィスか自宅か、あるいは会社が契約したコワーキングスペースか」といった限定的な選択肢にとどまっているように感じます。

けれども、せっかくリモートで働けるのであれば、社員一人ひとりがこれまで行ったことのない場所に赴き、全く違うバックボーンを持つ人と出会う方が、むしろ創造性を高められるのではないでしょうか。そうした体験の積み重ねが、チーム全体の「ゆるいつながり」を広げ、新しい発想につながると思います。oViceのようなバーチャルオフィスを使うことで、そうした発想を、温度感をもって共有しやすくなると思います。

一方で、新規事業の立ち上げ時や、チームの方向性を定める戦略議論といった重要な局面では、集まって対面で意見を交わすのも必要です。その切り替えを意識的に行うことで、創造的で成果を出せるチームづくりにつながると考えています。

 


 

薬袋さんのお話から見えてきたのは、多様な人との「ゆるいつながり」が独自の視野を育み、創造性を発揮する力になるということだ。国境や文化の枠を超えた「越境学習」を通じて専門外の知識や今までにない経験を取り入れたり、異なる価値観に触れたりすることで新しい発想を生み出す力が育まれていく。

さらに、他者との触れ合いの中から、自分の強み・弱みを客観的に把握し、それを言語化して説明できるようになることも創造性を支える重要なプロセスだ。

薬袋さんのように海外で多様な経験を重ねるのは、多くのビジネスパーソンにとって難しいかもしれない。しかし、社外の勉強会に参加したり、異なる部署や世代の人と話してみたりすれば、「ゆるいつながり」を広げることはできる。そうした小さな越境の積み重ねが創造性を高める一歩になるのではないだろうか。

最近の投稿