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2025年10月21日

創造性インタビュー

「出る杭は打たれる」から「出る杭は伸ばせる」~イトーキ・山村人事本部長ら~

ここ数年で従業員エンゲージメント指標が右肩上がりに推移しているイトーキ。2018年頃の社内調査で「誇りを持てる働ける会社である」と回答した社員は40%程度だったが、24年には80%以上に上昇。そうした意識変化に伴い、社内で創造的な活動も増えているという。いかにして変革をもたらしたのか。変革のキーマンである山村善仁取締役常務執行役員人事本部長、 近藤愛子コーポレートコミュニケーション統括部広報課長にインタビューし、その要因を探った。

 

山村善仁さん(左)、近藤愛子さん(右)、いずれも本人提供

 

「出る杭」にフォーカス

――社員のエンゲージメント向上のためにどのような施策を行ってきたのでしょうか。

山村氏 力を入れて取り組んできた施策として、インターナルコミュニケーション施策があります。インターナルコミュニケーションとは、経営・組織の方向性や価値観を社員に浸透させ、従業員間のつながりを強化し、組織全体の活性化を図るための戦略的なコミュニケーション活動です。この施策は、人事と広報が一体となり、さらに経営層をも巻き込む形で着実に推進してきました。

近藤氏 インターナルコミュニケーションの基盤となっているのがWeb社内報で展開している数々の記事です。各現場で際立った活躍を見せる、まさに「出る杭(くい)」と言える社員に積極的にスポットライトをあててきました。あえて「出る杭」に光を当てることで、会社が従来の「目立つ者は抑える」という風土から脱却し、変革を目指していることを伝える意図がありました。

「自分も取り上げてもらいたい」

――効果的な施策とするために工夫したポイントなどはありますか。

近藤氏 記事では選ばれた社員の仕事への向き合い方や想いを掘り下げ、業務の様子などたくさんの写真を添え、デザインも細部までこだわり雑誌のインタビューさながらの構成で紹介しています。他にも「社員が自律的に運営するコミュニティ活動紹介」や「社長の事業所訪問記」など、バラエティーに富んだ記事を出すことで社員からの注目を集めるよう心掛けています。

――社員からはどのような反応がありましたか。

近藤氏 「こんな風に載せてもらえるなら、自分も取り上げてもらいたい」であったり、社内の活気を身近に感じられたりするという声が届いています。またコミュニティ活動は自主性を尊重し手挙げ制を採用、意欲ある社員が誰でも関わることができるようにしています。ただ開始当初は、無駄な活動と現場で捉えられることもありましたが、社内の雰囲気の変化を多くの社員が肌で感じ始めたことで、現場での受け止められ方も好転してきています。こうした施策は、自律性・心理的安全性の醸成につながると考えています。

受けたい研修を自由に選ぶ

――人事面で制度変更等はあったのでしょうか。

山村氏 インターナルコミュニケーション施策などを経て社内の雰囲気が変化し、社員のエンゲージメントが向上するのに合わせて、人事制度改革にも着手しました。

――具体的にはどのような改革を行ったのでしょうか。

山村氏 例えば社内研修は、人事が定めた制度にのっとって実施していた全社的な階層別研修を廃止し、選択型研修を導入しました。手上げ方式で各社員が受けたい研修を自由に選べるようにしています。

成長願う人材を伸ばす

他に、ベテランからシニア社員向け中心に行われていたキャリアプラン・セミナーは、若いうちから参加できるように募集対象層を拡大しました。自分のキャリアを早いうちから考えることのできる機会を提供しています。これもまた自由参加の形式で、参加は強制ではありません。

――人事からの強制がない形式というのは新鮮さを感じました。

山村氏 「社員を子ども扱いするべきではない」という社長の湊の考えにのっとり、人事としては成長の「チャンス」を与えるスタンスをとっています。成長したいのであれば、自分で判断しチャンスを生かしていく必要があります。あえて平等一律ではない制度とすることで、成長したいと強く願う人材をさらに伸ばしていく狙いがあります。

創造的な活動にも好影響

――社内の改革が進む中で創造性の向上を実感したことはありますか。

山村氏 社員のエンゲージメント向上は、社内の創造的な活動にもよい影響があったと考えます。インターナルコミュニケーション活動で他の社員・部署の活動を目にする機会が増えた。その結果として、新しいことにチャレンジしてみようという社員が増えつつあります。

――具体的にはどのような事例がありますか。

山村氏 知的財産専門チームからは、長い間温めてきた新ビジネスアイデアの提案が社長に対し直接行われました。社員が自分たちの考えや思いを形にするために、具体的な行動に落とした自律的で創造的なアクションと言えます。実際にこのプロジェクトは現在社長直轄プロジェクトとして取り組みが進められています。

業務改善が大きく進んだ例も

毎年開催している業務改善提案の社内コンテストのレベルも、エンゲージメント向上に合わせて格段にアップしました。これまでは、社内ルールの枠組みの範囲内で考えられるアイデアが中心でした。しかし、社内ルール自体に対して疑問を提起するなど根本的な見直しまで視野を広げた提案により、業務改善が大きく進んだ例も出てきています。

 


 

着実に進められたエンゲージメント改革

これまで紹介した取り組みは、2022年に就任した湊宏司社長の強い意向もあり、低迷していたエンゲージメントを改善するために行われてきたものである。経営トップがエンゲージメント向上施策に本気で取り組む姿勢を見せることで社内全体の空気を変えていくことを目指したという。

結果として社内の雰囲気は大きく変化した。会社の空気感がポジティブに変わる中、それに呼応して社員は「自分も活躍したい」と自律的に「出る杭」になるべく動き始めた。各個人が自ら成長する機会を探し、創造的なアウトプットを生み出していく。一貫して社員の自律性を促進してきた成果と言えるだろう。

「エンゲージメントは一定程度までは会社側で引き上げられるが、それ以上に上げていくには社員自ら考え行動してもらう必要がある」と山村氏は指摘している。「出る杭を伸ばす」工夫の中に、会社と従業員の両方が良いサイクルで成長し続けられるヒントがあると言えるだろう。(了)

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