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2025年11月11日

創造性インタビュー

創造性を発揮できる人を育てるには ~リコーDT技術開発センター 原田亨所長~

創造性が特に求められる研究開発の現場において、いかにして創造的な組織を築いていくか―。株式会社リコーのR&D部門であるDT(デジタルツイン)技術開発センターの原田亨所長はその鍵が「人の成長」にあると語る。その考えに至った背景や、具体的にどのような施策を講じているのかについて聞いた。一問一答は次の通り。

 

原田亨所長(本人提供)

 

さまざまな人と接点を持つ

――「DT技術開発センター」とはどういう組織でしょうか。

デジタルツインは、現実世界から収集した多様なデータをもとに、仮想空間上に「現実の双子」のようなモデルを再現する技術です。この技術により、物理的な対象物をリアルタイムで仮想空間上で把握・分析・予測できるようになります。近年では、AI(人工知能)技術との融合が進み、より高度なシミュレーションが実現されるなど、さまざまな分野での活用が加速しています。

私の組織ではデジタルツイン技術やAI技術を生かして、ビジネスシーンにおける課題を解決する技術を開発し、市場検証を通じてお客さまへの新しい価値提供を目指しています。「DT技術開発センター」には、こうした技術の開発・価値創造に携わる所員が100人程度在籍しています。

――所員の成長を後押しするために、工夫していることなどはありますか。

所員には研究室や実験室にこもらず、さまざまな人と接点を持ち、他者の考えを積極的に取り入れることを推奨しています。

そのためのきっかけづくりとして、外部との交流の機会がある際には、私から声をかけて所員を誘い、一緒に出向くようにしています。

 

技術発表イベントの準備で多様な人々と積極的に交流する原田亨所長(中央)
【2023年9月、オーストリア・リンツ】

 

新たな視点や視座を得る

――どのような人との交流を推奨しているのでしょうか。

私が特に機会を作っているのは、ベンチャー企業やスタートアップ企業で働く方々との交流です。こうした企業で働く方々は、事業構想やマーケティング、技術開発、資金調達、人材確保など、ビジネスに必要なスキルをバランスよく備えている人が多い。そのような人たちとの交流を通じて、新たな視点や視座を得る機会を持つことが有効だと考えます。

現代においては、エンジニアであっても市場の動向に目を配りながら、お客さまと積極的にコミュニケーションを図り、ビジネス感覚を身につけることがますます重要になっています。

かつて研究所において、ウエアラブルデバイスの開発を行っているベンチャー企業と共同研究を行ったことがありました。ウエアラブルデバイスによる脳波測定技術を応用して、仕事中のモチベーションなどを脳波から予測し、働きがいを向上させる技術の開発を狙うプロジェクトです。

この共同プロジェクトへの参加がよい成長の機会になると考え、数名をプロジェクトのメンバーにアサインしました。そして、ベンチャー企業で働く人と一緒に研究・事業開発に取り組んだメンバーは、多角的な視点を得ることができ、目覚ましい成長を遂げたのです。彼らには初めこそ私が外部の人との接点を提供しましたが、そのあとは上司が強制しなくても自発的に外に出て交流を深めようとしています。姿勢の変化も見られました。

――交流を推奨するきっかけが何だったのでしょうか。

私自身の経験としても、そのような方々との交流で気づきを得たことがあります。自分が車載デバイス開発の組織リーダーを務めていたとき、モビリティ技術を取り扱うベンチャー企業の社長と一緒に仕事をする機会がありました。その社長とは年齢も近かったため、経験値は近しいと考えていました。

しかし技術以外の領域において相手が見ている視野は私とは異なっており、より高い視座から物事を捉えていました。そのため、私自身では思いもよらないような考えを持っていて、大きな刺激を受けたのです。

社会をどう変えていきたいか

――具体的に学んだ内容とは

特に自分の成し遂げたいことを自分の考えで相手にしっかりと伝える力については学ぶところが多くありました。

自分が社会をどう変えていきたいか、というシナリオをしっかりと描けている。さらに、その世界の実現のためにはこうするべきだという実行までのステップも、ち密に描けている。それを人にしっかり説明できる。ベンチャー企業で働く方はこうしたことができている人が多いと思います。

所員の皆さんにも、自分なりの価値観を持って自分の言葉でビジョンを語り、だからこそこの技術が必要だ、役に立つんだということを、語れるようになってもらいたいです。それをベースに、目指すところに向かってアクションを起こせる研究者になってほしい。理想的には所員全員がベンチャー企業の社長レベルのマインドを持つことが望ましいです。

 

技術発表イベントで他社との協働プロジェクトに参加する研究所メンバーと原田亨所長
(左から4番目)
【2023年9月、オーストリア・リンツ】=Bettina Gangl提供

 

創造的なヒトをつくる

――お話を聞く中で、成長という言葉がキーワードと感じました。

今は所員の成長につながることを最優先にしたいです。一人ひとりに「自分が何を成し遂げたいのか」という意識を持ってもらう必要があります。

自分のやりたいことがないと、会社の進む方向に合わせていくだけになってしまい、自主性・自律性の醸成にもつながりません。せっかくなら、自分のやりたいことと会社の目指す方向性・理念がマッチする方が創造性の発揮、ひいてはさらなる成長につながります。

「創造的なモノやコトをつくる」のではなく「創造的なヒトをつくる」ことが、今の自分にとって一番創造的な仕事になっているのだと思います。


 

原田氏は所員の成長を重視し、そのための機会を積極的に提供するマネジャーであるという印象を受けた。多様な視点を持つ人々と協働しながら新たな挑戦ができる環境づくりに力を注ぐ一方で、所員が自ら考え主体的に行動することを促し、創造性を発揮できる人材の育成に努めている。

原田氏自身にも「成長への貪欲さ」が感じられた。技術領域にとどまらず、異分野にも広く関心を持ち、情報を掛け合わせることで新たな発見や創造につなげようとする姿勢。そうした姿勢からは、想像を超えるアイデアを生み出すために試行錯誤する過程そのものを楽しんでいる様子が伝わってきた。

改めて、「成長することの価値」や「いかに成長していくか」について考え直すことが、今の時代においては重要なのかもしれない。

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