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2025年10月6日

創造性インタビュー

秘訣は働き方のモードチェンジに~Work Design Lab の石川貴志代表理事~

「一人ひとりの創造性を解放し、ワクワクする未来、その先にやさしい社会を創る」―。一般社団法人Work Design Labは「社会のためにやりたいことがある」という思いを内に秘めた人が活躍できる場の提供をミッションに掲げている。同法人を発足させた石川貴志代表理事に組織の成り立ちや創造性発揮の秘訣(ひけつ)を聞いた。一問一答は次の通り。

 

石川貴志さん

企業・行政・大学などと共創

――Work Design Labはどのような組織でしょうか。

私たちは、企業・行政・大学などとの共創により事業づくりを全国各地で行っています。社会課題を起点としたプロジェクトを創出して社会実装することを目指している組織で、現在約300人弱が在籍しています。

 

――具体的にはどのようなプロジェクトを手掛けているのでしょうか?

例えば、和歌山県と共に進めた「空き家活用プロジェクト」があります。

和歌山県内の空き家数は約10万5000戸。そのうち賃貸・売却などの利用目的のない空き家は約5万9000戸とも言われています。さらに、今後は高齢化の影響などの理由から、その数はさらに増えると懸念されています。

そこで、空き家を活用した新しいビジネスの創出を促すプロジェクトを同県と協力して企画。県内で活動する関係人口の増加による持続可能な地域づくりを目指して、Work Design Lab主催のセミナー、ワークショップ等を首都圏に在住する起業に関心がある層に対して実施し、セミナー後のフォローアップまで手がけました。(注1)

多くが副業で参加

――プロジェクトに取り組んでみたいと考える人たちは、どのように集まってきたのでしょうか

組織の成り立ちにも関わる部分だと思います。Work Design Labは震災のボランティア活動がスタートと言えます。私自身も東日本大震災の時にボランティア活動をしました。ボランティア自体は良い活動とはいえ、時間とお金に余裕がないと持続的に行うのは難しい。

こうした経験から、社会に直接貢献するアクションを仕事として行っていけるプラットフォームや枠組みがあれば、個人が持つ思いを社会全体に還元していけると考えるようになりました。始めは同じ思いを持つ人たちを集めて勉強会を行っていました。気づけば同じ考えの仲間が自然と増え、そこから一般社団法人としてWork Design Labを立ち上げました。このような背景もあり、現在も副業で参加されている方が大勢います。

「好き」「興味」が起点

――ミッションに掲げられている創造性について、どのように考えていますか。

仕事を進めていく上で創造性は非常に重要な要素だと考えています。個人とチームに両方に対して、創造性を発揮しやすくするための工夫をしています。

まずは個人についての工夫を紹介します。多くの人は「やりたいこと」がありますが、その思いの強さには強弱があります。内発的な動機が強くない人には、関心ごとを引き出すようにしています。例えば「好きなもの」「興味のあるもの」のようなレベルでもよいです。「好き」を起点に動けば、それを原動力に創造的な活動ができると思います。

多様なバックグラウンド

――チームに関しては?

われわれの組織は副業で参加している人が多いということもあり、組織内に上司と部下のような上下関係を一切作らないようにしています。互いに立場が同列なため「命令・指示」「強制力」がない環境です。代わりに相談が最も重要なコミュニケーション手段となり、互いに頼りやすい文化が醸成されます。連携が強化され、アイデアが生まれやすくなります。

また、多様なバックグラウンドの人が集まっていることも創造性にいい影響を及ぼしていると考えます。「やりたいこと」に対する志を同じくする人がさまざまな業界・専門分野から集まって、互いの異なる専門能力を自由に発揮してプロジェクトに臨みます。その中で「他のメンバーのスキルを盗み、学べることが非常によい経験となる」という声もよく聞かれます。

二つの組織でモードチェンジ

――創造性をイノベーション(革新、新機軸)として形にする上での工夫は?

現代はワークスタイルも刻々と変化しています。そのような中、われわれは創造性がイノベーションに結実していく過程で、意図的に働き方をモードチェンジできるような仕組みを作っています。新しい働き方をできるようにする実験の意味も込めて、二つの組織での運営を行っています。

一つ目は、これまで説明してきた一般社団法人Work Design Labです。こちらは社会課題にじっくりと向き合える時間をつくり、創造性を発揮しながらその解決方法を探求していく場と考えており、イノベーションの種ともいえる多くのプロジェクトが立ち上がっています。

そしてもう一つが株式会社Work Design Labです。プロジェクトが具体化していきソリューションの形になってくると、そこからはある程度のスピード感をもって、社会に実装していく必要が出てきます。つまり、創造性がイノベーションに結実した時、スムーズにアウトプットする役割を果たすのが株式会社の役割となります。この株式会社に所属するメンバーは、一般社団法人のメンバーが移籍して働く形を取っています。

チャンスを生み出す環境整備

――二つの組織では働き方も異なるのでしょうか。

二つの組織で働き方を明確にモードチェンジできるようにしています。一般社団法人は、仕事の中でじっくりと考える時間の確保を大切にしています。創造性の発揮はゆったりとした時間の中に身を置くことが必要だと考えています。周囲の多様な意見を受け入れながらも、自分自身の考えを深めていくことで、課題解決の糸口が見えてきます。

これに対して株式会社では、ソリューションが事業として成立するよう意識しつつ、アイデアの社会実装が求められます。発想段階とは異なり、ある程度のスピード感を持った取り組みを重視しています。

冒頭に紹介した空き家活用プロジェクトにおいても、社会課題への深い理解やその解決策の模索は一般社団法人で行い、自治体との連携やソリューションの提案は株式会社主体で行いました。

こうしたモードチェンジをうまくやっていく環境を整えようとすると、個人の工夫では限度がある上、従来の会社の制度や環境の下では難しいと考えます。創造性を発揮できるチャンスを生み出す環境整備のために何ができるか。新しい環境の在り方を模索するためにも、働き方を明確に分けている一般社団法人と株式会社という二つの組織形態で運営をしています。

三つのアドバイス

――創造性をなかなか発揮できない人へアドバイスはありますか。

これまで以上に創造性を発揮したい人に向けて、三つアドバイスがあります。

一つ目は、社外のコミュニティーへの積極的な参加です。社内で部署を越えて人とつながることでも構いません。こうした姿勢は視野を広げ、新たな気づきを得る上で非常に重要です。一般社団法人Work Design Lab でも異業種の方が多く在籍しているがゆえに、さまざまな視点が交錯し、新しいアイデアが日々生まれています。

二つ目は、命令されない環境に身を置いてみることです。普段の仕事の中では、会社のミッションに沿って上司の指示に従う必要があり、なかなか自由に働けない環境だと思います。指示や命令ではなく、自分の感情に従って本当にやりたいことにチャレンジできる環境をぜひ探してみてください。

三つ目は「巻き込まれ力」です。まずは、ある程度の心の余裕、時間的な余白を常に持つようにしてみてください。その上で、気が乗らなくてもまずは、いろいろなことに巻き込まれてみる。巻き込まれた先には、予想もしなかった創造性につながるヒントがあるかもしれません。



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石川氏は最後に「優しい人こそがイノベーションを起こしていける人だろう」と語った。ここでいう「優しい人」とは、健全な自己否定力を持って他者の視点を受け入れ、発想をより深めていける人だという。つまり、他者との共創の中で意見が対立した時にも、一度立ち止まって自分の考えを見つめ直せるかどうかが大切ということだ。個人として意識すべきは、優しさを持ちながら創造性を発揮するために、じっくりと物事を考える時間を積極的に作ること。これが重要である。

また、組織のマネジャーはメンバーが「じっくり考える時間」と「スピード感をもって着実に取り組む時間」をバランスよく確保できる環境を整える必要がある。実利を求め目まぐるしく進む仕事環境だけでは、個人がいくら意識しても考える余裕を持つのは難しい。積極的に社外に飛び出して多様な経験ができるよう促し、考えを深める機会を提供するなど、マネジャーが仕事の”余白”を作る手助けをしなければならない。それがイノベーションの種となる創造的なアイデアにたどり着くための近道となるだろう。

 

注1:⼀般社団法⼈Work Design Lab受託事業:和歌山県の令和7年度空き家を活用した複業・起業による関係人口創出事業
(参考URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000075577.html

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