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2025年5月17日

活動報告

第二十七回「はたらく人の創造性コンソーシアム」

テクノロジーと仕事の関係、創造性の本質とは?

第二十七回「はたらく人の創造性コンソーシアム」が3月24日、筑波大学東京キャンパス(東京都文京区)で開催された。現地・リモートのハイブリッド方式で、青山学院大学総合文化政策学部の河島茂生准教授(デジタル社会論、メディア研究、情報倫理)が「デジタル社会のクリエイティビティ」と題して講演。生成AI(人工知能)は創造性を持っているのか?人間との決定的な違いとは?AI時代に求められるクリエイティビティとは?河島准教授は、テクノロジーと仕事の関係が急速に変化する中、創造性の本質に関する最新の研究を紹介した。

 

〔講演要旨〕

◆仕事とテクノロジー:変化する関係性

・コンピューターやテクノロジーの進展に伴い、「仕事とテクノロジーの関係」に注目が集まっている。かつて画家の仕事が写真技術に取って代わられ、現在ではスマートフォンの普及により写真産業そのものが縮小するなど、テクノロジーの変化は仕事のかたちに大きな影響を与えてきた。
・特にAIは、自動運転、翻訳、教育、金融など多様な分野で活用が進んでおり、そのインパクトは日々拡大している。アドビ社の試算によると、生成AIが2023年に生み出した画像は150億枚にのぼり、これは過去150年間に撮影された写真の総数に匹敵すると言われている。このような爆発的なコンテンツの増加に見られるような大きな変化は、仕事の在り方にも大きな影響を与える。
・さまざまな報告書などで、今後、創造性の重要性が高まると強調されている。

 

◆AIにも創造性はあるのか?

・2016年に囲碁AI「AlphaGo」がプロ棋士を破った際、未踏の一手を打ったことから「コンピューターにも創造性があるのでは」と広く注目された。
・創造性と呼ばれる条件は、新しさと有用さが備わっていることであり、英サセックス大学名誉教授で、AI・認知科学・創造性研究の第一人者であるマーガレット・ボーデンは三つのタイプに分けた。

  • 結合的創造性:既存のアイデアを新しい形で組み合わせる
  • 探索的創造性:膨大なパターンを探索することによって得られる、新しい発見
  • 変形的創造性:枠組みそのものを変形し、新たな枠組みを創出(例:地動説の登場)

・生成AIは膨大なデータをもとに文章や画像を生成できるため、「結合的創造性」や「探索的創造性」を持つように思える。では、ヒトと機械の違いはどこにあるのだろうか。

 

◆ヒトと機械、本質的な違い

・人と機械の違いを明確に説明することは意外と難しい。よく知られているさまざまな観点で両者を比較してみても相違点が認められない。唯一の違いは、生き物は自己創出システム(オートポイエーシス)であること。これは、みずからをおのずから内発的に創出していく能力であり、現時点でAIを含む機械には備わっていない。

 

人間と機械との比較(河島氏作成)
 人間機械機械の例
ホメオスタシス(恒常性)冷蔵庫、エアコン
論理的推論コンピューター
自己複製×コンピューターのミラーリング、バックアップ
学習迷惑メール・フィルター
ニューロンの働きニューラル・ネットワーク
オートポイエーシス× 

 

・生き物には、「自らを作り変化させる創造性(ラジカル・クリエイティビティ)」があり、特に人には「自分自身を作り、かつ他のものを作るという二重の創造性(ダブル・クリエイティビティ)」「倫理的に社会や社会を構築する創造性(エシカル・クリエイティビティ)」の創造性が備わっている。
・このような創造性が機械の創造性との本質的な違いである。

 

◆技術と人間の共変化

・技術は人間の認知領域、作用領域を拡大してきた。電子顕微鏡がなければウイルスは見えなかったし、優れたレーザーカッターなどの技術がなければ精密機器は作れなかった。建築家ザハ・ハディド氏の建築に見られる複雑な形状は、コンピューターによる構造計算で実際に建築することが可能になった。
・生成AIの業務活用では、インプットとなるデータの質と量が鍵となる。マッキンゼー社は、社内文書や専門家の知見を組み込んだチャットボット「Lilli」を導入し、初期調査や会議準備の効率化・高度化を実現。その背景には、コンテンツの質を守る「データスチュワード」(資産であるデータを、責任をもって正確性を保ち管理運用する人)の存在があった。

 

◆創造性を育む社会の仕組み

・創造性の向上は、個人レベルから社会レベルまで、さまざまな支援環境の整備によって促進される。

  • ミクロ(個人・チーム):作業環境の整備、心理的安全性の確保、生成AIの活用等
  • メゾ(組織):知識へのアクセス性向上、創造性を促す制度設計、組織文化の醸成等
  • マクロ(社会):政策支援(スーパーコンピューター資源の提供、創造性促進事業の推進)、知識共有の促進(オープンアクセス論文の推進)等

 

・これからの社会では、人とAIの創造性の違いを理解した上で、技術をうまく活用して人の創造性を高めると共に、組織や社会レベルで創造性の向上を促す仕組み構築が重要になる。

 

◆編集後記

本講演では、人間固有の創造性を再定義しながら、AIなどのテクノロジーと共変化していく未来の可能性が示唆されました。今後「創造する力」を組織や社会全体でどう育むかが、今後ますます問われていくでしょう。

 

河島 茂生(かわしま・しげお) 氏
慶應義塾大学総合政策学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士後期課程修了。博士(学際情報学)。青山学院大学総合文化政策学部准教授、青山学院大学革新技術と社会共創研究所 所長
専門はメディア研究・情報倫理。主な著書は、>『生成AI社会 無秩序な創造性から倫理的創造性へ』(ウェッジ、2024)、>『AI×クリエイティビティ』改訂版(共著、京都芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎、2023)など。

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