2025年6月4日
活動報告
第二十八回「はたらく人の創造性コンソーシアム」が5月23日、リコー本社(東京都大田区)で開催された。現地・リモートのハイブリッド方式で、株式会社セガ エックスディーの稲葉行紀さん、櫻田翔さんが「使いたくなる体験のつくりかた」と題して講演した。セガ エックスディーが持つ「ゲーミフィケーション」のノウハウを基にした「ついやってしまう」仕掛けづくりや企業の課題解決事例などを紹介した。
〔講演要旨〕
◆ゲーミフィケーションとは
●プロダクトは作ったが使われない、機能は充実しているのに使われない…というケースが多々ありビジネスパーソンは頭を悩ませている。
●セガ エックスディーはエンタテインメント領域で培ってきたノウハウを活用。ゲームが持つ「人を動かし、夢中にする力」を他分野にも転用している。まるでゲームのように「ついやってしまう」「やりたくなる」というゲーミフィケーションの仕組みづくりを支援する。
●例えば、義務感で参加しがちな防災訓練にゲーミフィケーションを取り入れ、楽しく学べる防災訓練コンテンツを提供することで「参加したくなる防災訓練」に変えた(下記リンク参照)。
【参考】“楽しく”防災を学ぶ「ゲーム体験型防災訓練ソリューション」
(提供)セガ エックスディー
◆重要度が増すゲーミフィケーションの考え方
●情報爆発に伴い機能的価値(使いやすい)のコモディティ化は加速している。そうした中、競争力確保には情緒的価値(使いたくなる)が重要な世の中になっている。
●機能的価値「使いやすい」に加えて、情緒的価値「使いたくなる」にも着目したソリューションを提供することが重要。前者は体験の効率化である一方、後者は体験の最大化につながる。
●グローバルでゲーミフィケーションの活用が加速。ゲーミフィケーションの世界市場は2023年時点で2.61兆円。2027年には6.5兆円規模まで拡大すると見込んでいる。特に小売や銀行、医療、教育などの分野で活用拡大が加速している。
◆ゲームから学ぶ体験づくり
●ゲーミフィケーションは方法論のみ取り入れても一過性で終わってしまう。過去にゲーミフィケーションがブームになったが、行動原則となる欲求(本質)を捉えずに手軽な方法論のみ先行した結果、失敗した事例が多々ある。
●例えばポイントやランキングなどの仕組みを取り入れることは初期のゲーミフィケーションで多くみられたが、すぐ飽きられてしまった。人の求める体験や、やりたくなる行動に着目し「ついやってしまう」メカニズムを活用することが重要。
●ゲーミフィケーションで提供する「ついやってしまう」メカニズムは大きく3つに分類できる。①無意識の瞬間UX※(ついやってしまう)②意識の瞬間UX(ついやりたくなってしまう)③習慣UX(ついやり続けてしまう)―である。 ※UX=User Experience
①無意識の瞬間UX――ある検査のリピート受診を促すため、「今年受診すれば、来年度も検査キットをお送りします」という告知から、「今年受診されないと、来年度検査キットをお送りすることができません」という告知に変更。結果、受診率が7.2%高くなった。これは「損失回避性」という人間の行動特性を利用したもの。
②意識の瞬間UX――ゴミの不法投棄が問題となっている場所に鳥居を設置した結果、不法投棄が無くなった。社会通念上の規範としてやってはいけないと感じさせることで行動変容を促した。
③習慣UX――人間の9つの原理的な欲求(達成、求知、獲得、有能、感性、保存、自律、関係、回避)を喚起することで、ついやり続けてしまう状況をつくる。例えば、反復・継続が重要な英語学習と、「ついつい繰り返し取り組んでしまう」リズムゲームを融合させた新感覚リズムアクションゲームを共同開発した(下記リンク参照)。
【参考】ゲーム時間で勉強もできる「本格リズムゲーム」を共同開発
(提供)セガ エックスディー
【編集後記】
エンタメには人を動かす力があります。ゲームはその代表例のひとつで、「やらなくても困らない」にもかかわらず、多くの人を夢中にし、時間を忘れて没頭させる不思議な力があります。その背景には創造的な仕掛けが数多く詰まっていると実感したご講演でした。
近年は行動経済学の研究が進んでいますが、ゲームはそれに先んじて、人の意思決定や行動変容を促す仕組みを試行錯誤し、経験として積み重ねてきたと言えるかもしれません。
誰もが「ついやりたくなってしまう」ように工夫されたUX設計は、創造性発揮の観点で重要な要素である「内発的動機づけ」や「主体性」を生み出すヒントになりそうです。
