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2024年4月4日

第十六回「はたらく人の創造性コンソーシアム」議事録

「創造性リカレント教育」―経産省の取り組み、「創造的自己を高め、ハードルを下げる」―石黒千晶氏講演

第十六回「はたらく人の創造性コンソーシアム」が2月16日、東京都中央区の晴海トリトンで、現地参加・リモート併用のハイブリッドで開催されました。今回は経済産業省経済産業政策局産業人材課の中山一馬課長補佐が「創造性リカレント教育に関する経済産業省の取り組み」について、聖⼼⼥⼦⼤学現代教養学部心理学科の⽯⿊千晶専任講師が「創造的自己の高め方 創造的自己のハードル」について、それぞれ講演されました。

 

講演で中山課長補佐は、創造性を発揮するための組織の在り方や環境整備、創造的人材の育成などに関する情報を共有。質疑応答では参加者から多数の発言があり、活発な議論が交わされました。石黒氏は、当コンソーシアムが「プログレスレポートVol.1」で報告した「日本の働く人は『自分の仕事に創造性が重要であるという意識が低かった』」というアンケート結果を踏まえ、創造的自己の測定方法や創造性へのハードルの下げ方について解説しました。

 

なお、当コンソーシアムは第十三回から第十五回において、今後の方向性や創造性支援フレームワークに関して議論しました。内容は次回プログレスレポートで報告する予定です。

 

【2月16日、東京都中央区】

 

【講演要旨】《1》「創造性リカレント教育に関する経済産業省の取組」中山一馬氏

 

テクノロジー、ビジネス、社会が急速に変化する中で、答えが明確でない問題や変化し続ける状況に対処するため、創造的思考力が必要となる局面が増加している。創造性を重視する機運が世界的に高まっている中で、日本においても経済産業省をはじめ多くの国主導の取り組みがなされている。その例を紹介する。

 

①個人が創造性を発揮するための組織のあり方

・日本では創造性に対して「天才的な個の才能により生まれるものである」などの思い込みがあることがわかった。

・日本では組織における、年齢や役職、ジェンダー等による階層構造が強く、先人の作り上げた考え方に意見を言いにくいため、考え方や方法が固定観念化し、個人が持つ創造性が抑圧されてしまう傾向にある。

・こうした課題に対して、個人と組織の創造性を高めるためのヒントを整理・提案したガイダンス等を作成し発信している。

 

②個人とチームの創造的思考と態度

・新規事業に必要となる個人とチームの創造性を構成する要素をモデル化した。

・個人の創造性を構成する要素を、 好奇心、学ぶ力、ルールを疑う思考、自己肯定、創造的な自己の成功イメージに分類した。

・チームの創造性を構成する要素を、 創造性を促すマネジャー教育、チームのミッションと創造的態度の接続、創造的態度を肯定するコミュニケーション等に分類した。

 

③創造性人材の育成

・産業界における創造性人材の育成を支援するため、創造的な思考プロセスを可視化するとともに創造性の学びの場の創出を促すような、創造性育成研修プログラムを社会人向けに開発・実施している。

・プログラム参加者からは「新たな発想や視点を習得できた」「自身の固定観念や価値

観に気付いた」との評価が得られた一方で、「創造性と実務の接続」「創造性に対する周囲の理解不足」が課題との意見も挙がっている。

 

④個人が創造性を発揮するための環境整備

・日本企業が創造性を生かした新規事業の創出を行っていくためには、創造性に対する思い込みの解消や理解の促進、創造性を備えた人材の育成、創造性の評価等が課題。

・組織の創造性を育成する社内環境の整備に取り組む日本企業約20社の先進事例を収集し、 3月に公表。

 

令和5年度「大企業等人材による新規事業創造促進事業(創造性リカレント教育を通じた    新規事業創造促進事業)」報告書

 

「みんなで○○ 創造性 ~個人と組織の創造性を育むための20 の事例と 12 のヒント集~」

 

 

 

【講演要旨】《2》「創造的自己の高め方 創造的自己のハードル」石黒千晶氏

 

「創造的自己」とは、自分自身の創造性に対する信念のことである。自分自身で創造性への自信や価値を感じると、創造的自己が高いといえる。一方で、創造性への自信や価値を自身で感じていないと、その人自身の「創造的潜在能力」(多様でオリジナルなアイデアを考える認知能力)が高くても創造的な活動や成果につながりにくい結果になる(参考文献1)。

 

創造性のタイプには四つある。「社会を変える革新的な創造性」(Big-C)、「専門分野での創造性」(Pro-c)、「しっかりとした貢献がある日常的な創造性」(Little-c)、「学習プロセスの一部である個人内の創造性」(Mini-c)で、このうち「Pro-c」「 Little-c」「 Mini-c」 については日々の生活の中で発揮される(参考文献2)。

 

 

創造性の4タイプ

(出所)Kaufman & Beghetto(2009)を参考に石黒千晶聖心女子大学専任講師

 

創造的自己を高めるためには、創造性に関する教育や講座を行うことが効果的であると考えられる。①創造性の主な理論と研究に関する講義②グループでの創造活動の実践(ブレーンストーミングなどの発散・収束思考のテクニック)③仕事や家庭などでの創造活動の企画・実践-の3内容からなる講座を実施したところ、参加者の創造的自己が高まったという研究結果がある(参考文献3)。

 

創造性に対するハードルを下げるためには、社会を変える革新的な創造性である「Big-C」のみならず、日々の生活で発揮される「Mini-c」「 Little-c」「 Pro-c」も立派な創造性であると教育などで広め、創造性神話を打破していくことが考えられる。

 

創造性神話とは、創造性に対してよくあるネガティブな思い込みのことであり、職場や学校での創造性教育に悪影響を及ぼしている。特に日本においては、創造性とはいわゆる「Big-C」であるとの思い込みが強いことが研究結果としても見えてきている。創造性は特別な才能がないと発揮されないというネガティブな思い込みを変えていくのが大事だと考えられる。

石黒千晶(いしぐろ・ちあき)氏
聖心女子大学現代教養学部心理学科 専任講師
2017年東京大学大学院教育学研究科教育心理学コース博士課程修了。博士(教育学)。東京大学教育学研究員、金沢工業大学情報フロンティア学部心理科学科助教、講師を経て23年4月より現職。専門は教育心理学、美術教育、美、創造性、芸術。

 

*参考文献

(1)Karwowski, M., & Beghetto, R. A. (2019). Creative behavior as agentic action.

Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 13(4), 402

(2)Kaufman, J. C., & Beghetto, R. A. (2009). Beyond big and little: The four c model of creativity.

Review of general psychology, 13(1), 1-12.

(3)Mathisen, G. E., & Bronnick, K. S. (2009). Creative self-efficacy: An intervention study.

International Journal of Educational Research, 48(1), 21-29

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