2023年3月3日(金)、第三回「はたらく人の創造性コンソーシアム」が、東京都中央区にある晴海トリトンで行われました。第三回から第六回の会合では、本コンソーシアムに参加する全ての企業が「創造性」に関連した取り組みや課題認識、アイデアなどをプレゼンします。第三回はVISITS Technologies株式会社と株式会社リコーが行いました。
◆VISITS Technologies 松本さん
AI時代の本格到来により、人間にしかない「創造力」や「共感力」が注目されている。創造性を高めるためには「デザイン思考」が重要。それを実現するためのツールとしてVISITS Technologiesのサービスである「デザイン思考テスト」や「VISITS forms」がある。
<プレゼン>
- 良質な課題(ニーズ)は共感度と未解決度が高く、良質なソリューションは実現可能性と新規度(独自性)が高い。
- 本当に良いアイデアは多数決で決まらない。目利き力のある少数の人が「良い!」という意見をしっかり取り上げないといけない。
- 良質な課題設定、良質なソリューションのアイデアを出せるかどうか測定するツールとして、「デザイン思考テスト」を提供している。
- AIは「こういうワードが出た時は、このワードが出てくる確率が高い」という繋がりを横連鎖しているので、抽象化ができない。また、抽象化と転換思考を組み合わせることで、AIにはできない、人ならではの創造的なアイデアを生み出せると考える。
- 「VISITS forms」は、会議を抜本的に変革し、議論の生産性を上げるためのツール。その他、WEB上に出ていない企業個別の情報を収集し、重要な意見をスコア化することも可能。
- ネット上に出ていない心の中の暗黙知を、どういう形で収集して整理するかが最後の勝負領域として残っていると考えている。そこで、私たちは自社開発の「デザイン思考テスト」を用いてデータを収集したり、会議を支援したりすることで、世界中の人の考えやクリエイティビティを収集し、分析している。
<ディスカッション>
―クリエイティビティを高めるために課題解決のツールを使って組織の力を高めていくことがイメージできた。一方で、個人がどういう環境や学習をしたらクリエイティビティが上がるか、という答えはあるのか。(メンバー1)
バイアスフリー(無意識の思い込みをなくす)になる環境を自分で設計することで、クリエイティビティを高めるというのは意識的に可能。
当然、インプットの量も重要。イノベーション=新結合なので、結合するネタをたくさん持っていないと結合が起きない。旅をするとか色々な価値観に気づくとか人に出会うとか話をするのも重要。ただ、ネットワーキングだけして出会うことやインプットだけが目的になってしまうといけない。情報を解釈し、抽象化して新結合できる状態で頭の中にインプットできるかが重要。インプットをして、自分の中に落とし込んで、新結合しやすいバイアスフリーな状況におくことが大事。(松本さん)
―今日はデジタルの話が多いですが、弊社ではハード的な環境を考えて検討している。デジタルとリアルを組み合わせたらどうなるか、という点を皆さんと作り上げて研究していけたら面白いと思った。(メンバー1)
―Empathy(共感)が関連していると感じた。クリエイティブが先にあるのではなく、共感することによって、何か突出したアイデアを出し創造性が作られるというイメージなのか。(メンバー2)
その通り。共感することによって、潜在的な課題に気づいて、その課題を解決することによって創造的なものが生まれる。AIがなぜ課題を設定できないかというと、共感力を持っていないから。人は、認められたい、ラクしたいなど共通の本源的欲求がある。不合理な欲求を持っているが故に創造性があると考える。(松本さん)
―クリエイティビティを上げるのは難しいけれど、Empathyを上げるのは少しハードルが下がると思った。組織全体の創造性を上げるという観点で、Empathyをどう育てていくかが一つポイントなのではないかと思った。(メンバー2)
まさにそうで、インタビュースキルなどを学んだりもするが、共感できる経験を積むということもあるし、欲求ベースで人を見る、ペルソナレベルで共感できるか、解像度高くその状況と心の動きを想像できるか、という点を自分でトレーニングするなどの方法もある。(松本さん)
―松本さんのトレーニングを受けて個人やチームで創造性があがったというのはイメージしやすいと思った。ただ、1000人くらいの企業では組織の仕組みなど創造性が上がらないといったことを感じることはあるか。(メンバー3)
社員全員がトレーニングをしないと意味がない。一部の人をトレーニングしても差がついてしまう。一部の人が革新的アイデアを出しても、クリエイティブな商品を出していくことは難しい。組織全体で目利きする力がないと、クリエイティブなアイデアは潰されるので、創造力のある人は会社を辞めてしまう可能性もある。(松本さん)
―韓国発の縦スクロールのデジタル漫画がある。縦スクロールでスイスイ進んでいくと1ページあたりの情報量を多くすることができない。紙面の日本の漫画は情報量が詰まっているが、縦スクロールになっただけで情報量が多すぎて違和感が出たりする。これは潜在ニーズというよりも、パターン認識に慣れすぎて、昔のパターン認識を受け付けなくなった、という気がする。そういうアイデアはデザイン思考で見つけられるのか。(永山准教授)
実際に、新規事業で潜在ニーズを見つけるのは難しい。独自の価値提案はあるけれどUI/UXが良くなくて、それを改善することによってユーザーエクスペリエンスが向上するのだったら、新規事業を生み出すより圧倒的に簡単。大企業の中では価値は認められているので通しやすい。すごくわかりやすいし、実は多くのサービスが成功している。たとえばSkypeがあったけれど、Zoomに一瞬で抜かれた。いちいちダウンロードせずURLを共有するだけで良い、という本当にちょっとしたことでブレイクするということが結構ある。人はちょっとしたエクスペリエンスの向上にお金を払い、価値を見い出す。(松本さん)
◆リコー 稲田さん
創造性を高めるために人を取り囲む「環境」に注目している。その環境を手軽に作るために3Lという実践研究所を設立。同研究所には、人の創造的な気持ちを高める新しい会議空間(RICOH PRISM)を実装し、そこで日々実験データを収集している。
<プレゼン>
- 3Lでは、アプリやウェアラブルデバイスを使って、施設利用者のコミュニケーションを可視化。チーム活動を支援する空間を提供することで、次世代のオフィスのあり方を体現している。
- RICOH PRISMでは、目的に応じてアプリケーションを選んで使う全く新しい会議空間を作った。この空間の中での人の振る舞いをセンシングし、クイックにフィードバックすることで、人の気持ちに作用し空間全体でチームの目標達成をサポートします。
- プロジェクションや大型ディスプレイに囲まれたこの新しい会議空間は、人の感情に大きな影響を及ぼす。この非日常的な共通体験はチームの創造的な気持ちを高める。チームワークにおける3つの領域をカバーする、10つのアプリケーションを使いこなすことで、リアルで会ったチームに最高のパフォーマンスをもたらすことを目指している。
- PRISMを最初に企画した時に、企画者が創造性を発揮する上で大切なのは、素質、チーム、モチベーション、環境の4つだと主観的に考えている。
(出所)リコー はたらく歓び価値創造室
- チームワークにおける重要な領域3つを考えた。「旅する」領域、どうやって仲間と「交えるか」という領域、そして、心身を「整える」という領域(まだ見ぬ新しいものを生み出そうという行為は苦悩を伴うものであるため)。これらのプロジェクションを用いて、センシングからクイックフィードバックを行う仕組みは、エンターテイメントの世界ではよく活用されていたと思うが、それを仕事の領域に取り入れたのがRICOH PRIOSM。
(出所)RICOH PRISM(https://www.prism.ricoh/)
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<ディスカッション>
―わくわくする話だと思った。弊社もアートの会社を買収したりして、画一的な空間ではなくいろいろな空間を提供したいと考えている。いま、オフィスに来る意味が働くよりエンゲージメントやメンタルをやられないようにする、という方向になっている。(メンバー1)
―面白い取り組みだと思う一方、なぜ会議に拘ったのか疑問に思った。本当に旅をすることとの違いは何か。(永山准教授)
気持ちを盛り上げるワクワクする空間を作りたいと考えた時、変数が多すぎると複雑になってしまう。会議は目的を持って集うため、シーンが限られている。会議室という場を初めのターゲット領域とするとトップ層からの理解も得られやすいと考えた。実際に海や海外に行く行為に勝るものはないと思う。8時間働く中で一瞬陶酔したい、集中したいという時に、丸一日かけてどこかへ行くというのとは別の選択肢を用意したいと考えた。働く人のチョイスを増やすという意図でこういうものを作った。(稲田さん)
―人が「瞑想したい」と思って瞑想できる人はあまりいなくて、サウナにいく方が瞑想できるということもある。課題を直線的に解決できるものではない、空間で狙った意図通りのことをやるのは難しいのではないかと思った。(永山准教授)
狙い通りの振る舞いやコミュニケーション、チームワークができているかは、まさに今実験中のデータをもとにレビューをし、改善に向けた試行錯誤をしている段階。(稲田さん)
―弊社も瞑想できる空間を作っている。どこまで一つの空間でできて、どこから先は滲み出していくのかという議論ができると面白いと思った。(メンバー2)
◆リコー原田さん
創造性を高めるためには、働く人が能力を最大限に発揮し、いきいきとワクワクを創り出す環境が重要。そのためにデジタル上の相棒(=DigitalBuddy)の実現を目指している。
<プレゼン>
- Cyber Physical Humanity System 人間中心の世界での貢献
- あらゆるドキュメントや業務がデジタル化されている。人やチームといった人に関する部分はこれからデジタル化、高度に融合化されて新たなサービスができると考えている。リアルとデジタルが融合した中で、仕事をしている人がお客様と繋がっていて、ダイレクトにフィードバックが得られるようにすると良いと考えている。
- 働く人が能力を最大限発揮し、いきいきとワクワクを創り出すDigital Buddyの実現。デジタル上に自分にとっての相棒がいるような世界観。
(出所)リコー 原田氏
<ディスカッション>
―組織の力を高めるソリューションやAIという話が出ていました。組織の力を高めるために、部下と同じ特性を持ったAIを作るのが良いのか、リアルに存在しないチームに足りない人を作る方が良いのか、どちらが良いかといった議論はあったか?(メンバー1)
議論はしている。ただ、ソリューションによると考えている。1 on 1の時に、部下のコピーが良いのかモデルケースの方が良いのか、という議論があった。今は、困っているシーンをモデル化したものの方が良いのではないか、という結論になっている。(原田さん)
―弊社の人間研究所の中でもアナザーミー(Another Me)という言い方をして研究をしている。自分だけれども、別の自分という言い方をしている。これを作るのはとても大変で苦労している。人のあらゆる部位、思考をいっぺんにデジタル化するのは大変なので、モジュール化してデジタル化してコンピューティングしていくということをやっている。今日の話ではDigital Buddyを作る中で、人のデジタルツインと環境のデジタルツインの両方に取り組んでいるというお話があった。もう一つ、働く空間の他に生活空間、働くために必要な時間と空間についても取り組んでいこうと思っている。はたらくために必要な周辺の要素についても議論していきたいと思う。(メンバー2)
2年間取り組んできて、人と場(場面・雰囲気)という両方を捉える必要があると思う。最近の研究は、その場ではなくコンテキストが影響することも分かってきている。その場面だけではない影響があるため、その時だけではなく、文脈を検討する必要があると思っている。この点については、ぜひ一緒に議論していきたい。(原田さん)
―ChatGPTはデジタルバディのようなものに感じる。なぜ個人に寄せることが重要なのかがわからない。仮に無限にデータが得られるからマーケティングや町のシミュレーションができるというのはわかる。はたらく歓びの時になぜデジタルバディなのかというのは哲学が必要だと思う。(永山准教授)
個人個人のパーソナライズができる領域で何かできることがあると思っているが、進めながら考えていきたい。(原田さん)
―ChatGPTとAnother Meは違うと思っている。それは人を知りたいから。はたらくに歓びをと言うことで出てくるのは、価値の連鎖という点があると思う。人それぞれ快適であるとか、コンディションが良いとかいう状況は違う。今はこういう温度が良いとか風とか、光とか色々なことを想定してセットしていく。人のところは脈拍を取ったり、なるべく色々なデータを与えて演算をした結果、この人は快適であろうという予想で設定するしかない。
AIでないものを作る、性格を作るということではなく、人が心地よくなるためのバディを作ることが必要なのではないかと思って進めている。(メンバー2)
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◆ひとこと
3月3日、第三回コンソーシアムが開催されました。この日、現地会場ではVISITS Technologiesの松本さんからご自身の書かれた新刊(松本 勝『デザイン思考2.0 人生と仕事を変える「発想術」』小学館新書, 2023.)を献本頂き、嬉しいサプライズがありました。本コンソーシアムのテーマと関連のある内容ですので、是非一度お目通し頂ければと思います。
さて、3月3日と言えば、野球選手の大谷さんがWBC(ワールド・ベースボール・クラシック、以下WBC)参加のために来日し、日本中が活気に沸いた日でもありました。その後、「侍JAPAN」は順調に勝ち上がり、最後は見事優勝、通算三度目の栄冠を手にしました。私も今回のWBCを通して様々なことで感動しました。ヌートバー選手の大活躍、骨折した源田選手の華麗な守備、不調から見事に復活した村上選手、チームをまとめ上げたダルビッシュ選手、そして、トラウト選手との対決を制した優勝投手の大谷選手、その他の選手も全員が素晴らしかったです。
ふと選手の活躍している姿を見た時に、私は昨年行われたサッカーワールドカップ決勝戦前日のことを思い出しました。当時決勝戦を明日に控えた会見の場で、インタビュアーはアルゼンチンの選手に、以下のような発言をしました。
―インタビューはこれで終わります。ですが、最後にあなたに伝えたいことがあります。それは明日の決勝戦は、勝っても負けても問題ないということです。なぜなら、祖国は現在大変な感動に包まれています。子供たちは、あなたのプレーに夢中になり、全員があなたのユニフォームを持っています。それは本物かもしれないですし、レプリカかもしれない、もしかしたら想像上のものかもしれません。サッカー選手として、こうした感動を祖国にもたらすことは、優勝トロフィーを手にすること以上に大切なことだと私は考えます。そして、あなたたちは決勝戦を前に既にそれを成し遂げています。私たちは本大会で本当に良い思いをさせてもらいました。だから、ありがとう。キャプテン!(一部、筆者意訳)
気が付くと私も上記インタビュアーと同じような気持ちになっていました。皆さんにとってのWBCはいかがでしたでしょうか?
(事務局 小川)